決算!忠臣蔵
作品情報
監督・キャスト
監督: 中村義洋
キャスト: 堤真一、岡村隆史、濱田岳、横山裕、妻夫木聡、荒川良々、竹内結子、石原さとみ、橋本良亮、西村まさ彦、寺脇康文、上島竜兵、堀部圭亮、山口良一、鈴木福、千葉雄大、滝藤賢一、笹野高史、木村祐一、波岡一喜、鈴鹿央士、板尾創路、村上ショージ、西川きよし、桂文珍、阿部サダヲ
日本公開日
公開: 2019年11月22日
レビュー
☆☆☆
劇場観賞: 2019年11月27日
あの赤穂浪士討入り事件を経済面から描く変わった切り口の時代劇。え~~、ここでこんなにお金がかかるの?というトリビア的楽しさ。
キャストもバッチリ合っていて、堤んの内蔵助もすごく良かった。岡村さんも上手い!
しかし、忠臣蔵を全く知らない人は冒頭から切り捨てられる。
あらすじ
元禄14(1701)年3月14日。事件が起こったのは江戸城・松の廊下。「濁った水を綺麗にする」ことを強く願う清廉潔白な赤穂藩藩主・浅野内匠頭は、かねてより賄賂まみれだった吉良上野介の態度に据え兼ね、斬りかかります。通常であれば喧嘩両成敗となるはずが、幕府が下した結論は、浅野家のお取り潰しと、内匠頭の即日切腹。突然藩主を亡くし、お家断絶となり、赤穂藩士たちは路頭に迷います……(Filmarksより引用)
ストーリーは「忠臣蔵」の裏話
本作は、江戸・元禄の時代に起きた「赤穂事件」の裏話を経済面から綴るストーリーである。
「あの」江戸詰めの藩士たちが赤穂へやって来るためにいくら掛かったか、みんなが身を隠していた「あの」長屋の家賃はいくらだったのか、当日の「あの」衣装はいくらかかったのか……それを当時と現代の「かけ蕎麦一杯」の相場で分かりやすく見せてくれるという楽しさ。
元禄のそば一杯、十六文。
現代の円に換算すると一杯480円。
だから、一文=30円。
これを元に話が進むのである。面白い。
人や物の映像にプライスが掛かる演出に笑えた。これは好みが分れる所。通販やゲームのような演出が多用されていて、既存の時代劇とはかなり違う。
『忠臣蔵』をガッツリ期待して観に行った人は、ラストでポカーーンとなりそう…(笑)
そして『忠臣蔵』裏話であるから、『忠臣蔵』を知らない人は本当にポカーーンだろう。
『忠臣蔵』(赤穂事件)簡単解説
だって、日本人誰でも忠臣蔵を知っているわけではないよね。知っているから笑えたりホロっとしたりできるわけで、これは楽しもうと思ったら忠臣蔵の予習が何かしら必要。
ということで、本当にザックリっっと「赤穂事件(あこうじけん)」と『忠臣蔵』を説明。
そもそも「赤穂事件」とは
元禄14年とは江戸時代中期、現代(2019年)から310年ほど前、将軍は第五代・徳川綱吉の治世。(小学校の教科書にも載っている「犬公方」生類憐みの令を出した将軍といえば分かりやすいかも)
今日は12月14日(金)「四十七士討ち入りの日」
元禄15年12月14日(新暦1703年1月30日)は、赤穂浪士四十七士が吉良上野介邸討ち入りを行った日です。赤穂市では赤穂義士祭、吉良邸跡である両国・本所松坂町公園と赤穂浪士の墓所泉岳寺において義士祭が行われます。#新日本カレンダーゆとり部 #泉岳寺 pic.twitter.com/mViRyeakSh— 新日本カレンダーゆとり部 (@nk_yutori) December 13, 2018
江戸城内の松の廊下という場所で、赤穂藩(現在の兵庫県赤穂市)藩主・浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が吉良上野介(きらこうずけのすけ)という旗本に斬りかかったのがそもそもの発端。
この日、江戸城では朝廷の使者を接待中で、浅野内匠頭はその接待役、吉良はその指導役であった。なぜ斬りかかったのかについては、次の項で。
お城の中での刃傷沙汰がすでに処刑案件だったけれど、その上大事な客を接待していた最中にこんな事件を起こされ将軍は激怒。浅野内匠頭は家臣にも、もちろん妻にも会わせてもらえず、その日中に切腹。斬りつけられた吉良には命に別状はなく、お咎めも無し。
事態を知った赤穂藩は、突然我が殿を失ったショックを嘆く間もなく、城の明け渡しと浅野家のお取り潰しを言い渡される。(内匠頭には子どもが居らず、後継ぎが無かった)
藩が無くなれば藩士たちは浪人となる。赤穂藩の浪士たちは、喧嘩両成敗の処分をしなかった幕府への不満を募らせ、主君が城内で刀を抜くような切っ掛けを作った吉良を恨み、筆頭家老・大石内蔵助(おおいしくらのすけ)を中心に「たくさんの話し合いと準備を重ねた末」(←この映画で描かれるのは主にこの部分)元禄15年12月14日、47人で吉良家へ侵入、仇討ちを果たした。
この吉良邸討ち入り事件を赤穂事件という。
そもそも『忠臣蔵』とは
『忠臣蔵』とは、この「赤穂事件」を元に作られた人形浄瑠璃や歌舞伎の題目であり、つまり創作物。
【大阪・国立文楽劇場】現在上演中の11月公演『仮名手本忠臣蔵』から九段目「山科閑居の段」のハイライトシーンをまとめた動画が読売新聞公式ホームページ「読売新聞オンライン」上でご覧いただけます。夏休み公演に続いて読売新聞の協力で実現した企画です。→→→https://t.co/YCcf5N6LHt
— 国立劇場文楽公演(東京・大阪) (@bunraku09) November 19, 2019
そうじゃなくとも生類憐みの令なんかのおかげで苦しい生活を強いられていた庶民は、吉良邸討ち入りを果たした赤穂浪士たちに大変共感していた。江戸時代も15代にもなれば戦も遠く、そんな中で主君への筋を通し、武士としての筋を通した赤穂浪士たちは庶民のヒーローとなった。
実際は浅野内匠頭がなぜ吉良上野介に斬りかかったのかについての史料は無いが、朝廷の使者を接待する中で吉良による浅野イジメがあった(らしい)という証言などを得て、そういう悲しい切っ掛け話が作られた。つまり、以下である。
見る前に知っておいた方がいい『忠臣蔵』あらすじ
物事の裏を読むようなことが嫌いな高潔な性質で、細かいことに気が回らない内匠頭は、高家への礼は充分尽くしているつもりであった。が、がめついパワハラ爺は礼の少なさを許せず、内匠頭にわざと間違えた情報を与えたり、大事なことを教えなかったり、鬼畜な虐めを繰り返して恥をかかせた。
内匠頭の精神は次第に衰弱していき、ついに3月14日、江戸城松の廊下で「遺恨を覚えたか!」と吉良に斬りかかった。吉良は額に傷を作ったものの、内匠頭がすぐに取り押さえられたために命に別状はなかった。
内匠頭は即座に城から出されて田村という家に預けられ、その日中に田村家の庭先で切腹申しつけられた。片岡源五右衛門だけが切腹の立会を許されたりしている創作物も多い。
やるからにはチャンスは一度きり。失敗は許されず、決意のある者しか連れていけない。1年以上の時間を経て、仇討ちをあきらめた者、生活が貧し過ぎて仇討ちどころじゃなくなった者も出て来るようになり、最終的に47人の浪士が集まり決行。
寝所から逃げ出し女の小袖を被って蔵の中に隠れていた吉良を発見。槍で刺し殺して首を取った。
その足で泉岳寺の殿の墓前に首を供えて仇討を報告。その後、四隊に分けられて四大名の屋敷に預けられた。やがて幕府から処分の沙汰を得て、翌年2月4日、それぞれの預け先で切腹。遺骸は殿と同じ泉岳寺へ葬られた。
大星由良助(大石内蔵助)率いる四十七士たちが高師直(吉良上野介)の屋敷に討ち入る仮名手本忠臣蔵のクライマックス。なぜか由良之助の後ろに、塩冶判官の幽霊が浮かび上がっているという珍しい作例です。原宿の太田記念美術館で開催中の「落合芳幾」展にて、8/26まで展示中。 pic.twitter.com/hLRxfbwb5C
— 太田記念美術館 (@ukiyoeota) August 10, 2018
実在の浅野内匠頭と吉良上野介の評価
映画を観る前に知っておくべきだとは思わないけれども、実際には「虐めを受けていた」という浅野内匠頭も「融通が利かない」「神経質で気が短く癇癪持ち」などという評価が近年は出てきている。
吉良上野介に関しても「人格者であった」「名君であった」という『忠臣蔵』とは逆の評価が出てきている。
何ごとも、見る立場が違えば評価も動くということで……。
なぜ日本人は『忠臣蔵』が好きなのか
「赤穂事件」は幕政への不満が声になり後押しされ形になって起きたことで、浅野、吉良、どちらが悪かろうが発端は「喧嘩両成敗」を行わなかった幕府のせい。(もっとも、「刀を抜いたのは浅野だけで吉良は抜かなかったので喧嘩ではない」という言い分もあり、それにはちょっと納得……)
吉良は名家の出で朝廷の覚えもめでたく、将軍家とも縁戚。事件後、お咎めどころか、吉良は幕府から怪我を心配されている。
そんな不公平と理不尽への怒りが、生活に苦しむ人々の気持ちと重なり、また、戦のない世の中でも殿に忠義を尽くす赤穂浪士たちの漢気に涙し、「スカッと!」な結末に現代に至るまで拍手喝采してしまうんだね。
元禄物価トリビア
以上の『忠臣蔵』説明を踏まえて観た方が、なぜ赤穂浪士たちが仇討ちなどしようとしたのか分かりやすいかと思ったので書いてみた。
実際、この作品では「準備」の部分がほとんどで、浪士の心情的な部分はほぼ省かれているから。つまり、金が無さすぎて悲しんでるヒマがないような状態になっているのである(笑)
個人的には、大河ドラマも、昔から毎年のようにやっていた年末ドラマも、本も興味深く見てきたので、トリビア的な内容がとても良かった。
番方と役方がこんな感じで接していた事。裏の仕事はいつの時代でも地味で損な役回りである事。大石内蔵助(筆頭家老)の年収。役方の年収。数字が苦手な私にも分かるように映像にされているのは興味深かった。
こういう『忠臣蔵』もたまにはいいよね。お金は大事にしよう!
千葉雄大を探せ!
千葉ちゃんを探せ!には失敗したので(忘れていてEDで気づいた)、知りたい方にはお知らせしておく。
四十七士ではありません。
前の方で出てきます。
ワンシーンだけ!
ファイッ!
以下ネタバレ感想
「ウォーリーのごとく探してくれ」と言われた千葉ちゃん出演だけれども、すっかり忘れていて探さない内に終わってしまった……(っていうか、予告に出てたんじゃん)
正解は内匠頭の切腹時、介錯を務めた幕府の武士・磯田武太夫さんでした。
長屋一軒5~9万円、刀12万円、弓10万円、京都ー江戸間片道36万円……。
飛ぶように消えていくお金。
江戸詰めの人たちが嬉々として赤穂へ帰って来るのを見ながらハラハラするのは観客だけ(笑)
あの揃いの装束にまで、金に困っていたとは気の毒すぎる。
しかし。
やはり、殿の最期を飾るのならば恰好はつけなくちゃね。
大石内蔵助がこれからどうなるのか知らずに見ていたら、グッとも来なかったかもしれない りくとの別れのシーン。主悦くんとも別れを惜しんでほしかったねぇ。
大石主悦はわずか16歳。最年少で切腹した。
内蔵助はお咎めが及ばないよう りくを離縁し実家へ帰したが、次男は出家して僧になる運命を辿った後、早世。別れた時に りくの腹の中にいた三男は浅野の本家に士官した。
劇中では島送りになった15歳以上の若者たちが瑤泉院の嘆願で赦免されたように描かれていたけれども、実際には桂昌院(綱吉の生母)の一周忌で赦免されたらしい。
遠島になった4人の若者たちの内の1人、間瀬定八は島で亡くなっている。赦免に伴い、15歳以下の遺児たちの遠島は処分取り消しになったが、多くの子どもたちが刑を免れるため15歳にならぬ内に出家した。
私が実はあまり「忠臣蔵」を好ましく思わないのは、遺族の苦労を思うから。
男ってバカねって思ってしまうのである。
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★前田有一の超映画批評★
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