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『二重生活』満たされる方法

二重生活

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監督: 岸善幸
キャスト: 門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、河井青葉、篠原ゆき子、西田尚美、鳥丸せつこ、森本のぶ、岸井ゆきの、リリー・フランキー

公開: 2016年6月25日  観賞: 2016年6月22日(試写会)

主人公の行動は理解できず、共感も出来ない……
なのに、映画は終始主人公の目線。

見ている方も尾行を体験しているような気持ちに襲われる。
これは、とても、いけない事……。

◆あらすじ
大学院に通う25歳の珠(門脇麦)は、19歳のときに遭遇したある出来事をきっかけに長い間絶望のふちをさまよっていたが、最近ようやくその苦悩から解放された。彼女は一緒に住んでいる恋人卓也(菅田将暉)と、なるべくもめ事にならないよう、気を使いながら生活していた。あるとき、珠は恩師の篠原(リリー・フランキー)から修士論文の題材を提示され……。(シネマトゥデイより引用)

 

別に好きでもなく興味もない人を尾行したいと思ったことはないが、仕事や何かの事情でこんな事になったら、さぞドキドキするだろうとヒロインを見ながら息が詰まりそうになる。

見ながら、というよりもカメラが主人公の視点で動くので、いつの間にか入り込んでしまうのだ。

冒頭の若さ溢れる朝チュン後、ベランダから見下ろす幸せそうな親子の風景。

あ、私、このくらいの年齢の時はこんな子連れ夫婦に何の興味も示さなかったな、と何故か懐かしく思い出す。

大学へ行く、講義を覗く、論文の相談をする…。何だろう。全て疑似体験させられているように感じる。

つまり、とてもリアルだ。
岩代さんの静かな劇伴がジリジリと緊張感を高める。
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展開が全く読めず、どのセリフも全く予測できず、夢中で見た。

夢中で見ているから体感時間が早いかと言えばさにあらず、緊張感が持続しているので意外となかなか時間が過ぎていかない。逃げたいのに逃げ切れなかったり(笑)
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抑えた演出と共に物語をリアルに映し出す役者さんたちの演技。

菅田将暉は今回も素晴らしいが、とにかく、長谷川博己が私が見たかった長谷川博己だった。

ハセヒロを本気で怒らせたら怖いんだな、と思った。 あの冷たい目ね。精神的にジワジワ来る。
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試写会の後にゲストの評論トークショーがあって「長谷川博己のああいう感じにはゾクっとする、かっこいい、押し倒されたい」的な事をおっしゃっていたけれども、本気でちゃんと見ていたのかな(笑)

あれは単なるセクシーどS男なんて演技では無かった。
侮蔑と嫌悪の目ね。あんな風に恐ろしい目で見られて責められたら、ただすくむよ。

最近のハセヒロは妙なテンションで叫ぶ役が多かったけれども、これは銃を持ったハセヒロよりも本気で恐い。こういう演技が見たかったから、とても嬉しい。嬉しいけれども…こんなに嫌われたらすごく悲しい。。

あそこでゾッとしてしまったのも、やはり視点がヒロインの目線になってしまっていたからなんだろうな、と。

それにしても門脇麦ってすごい女優だ。

たぶんその辺にいたら普通の人っぽいのに、濡れ場の色っぽさと開き直った時の墜ちっぷり。

『合葬』の時にも何てエロくておっかない女なんだと思ったんだよね。
朝ドラなんて出てる場合じゃない(笑)

菅田くん@卓也の存在がとても歯がゆくて…ああ、若さだからなのかな、とか。そういう所もまた上手い。

優しいけれども我慢もできないのよね。

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もの凄く寂しかった。

結局、珠はラストのあのシーンまで、どんな生活を送っていたのだろうか。

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人間の孤独を散々見せられた末の、あのラスト。

尾行して、覗いて、恐ろしくて寂しくて…。
体感する2時間。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


 

みんな秘密を持っていて、それを持つことで埋まらない何かを埋めている。

尾行する事で、次第に石坂の秘密を共有する気持ちになっていたらしい珠。

見ている方は本当にドキドキしたわ。
だって、所詮は素人。変装するわけじゃなく、そりゃ「あそこにもここにも居ただろ」とバレるよね。向こうは目ざとい敏腕編集者なんだから。

名前を呼ばれて追いかけられて、電話までかけて来られて、恐い軽蔑の目で見られて、あんなの相手がハセヒロだって逃げたくなるわ。

本来ならば教授も一緒に謝らなきゃいけないところ…。

ホテルのコンシェルジュには見られているし、ごみ収集のカメラも見ているし、違うサスペンスドラマだったらきっと犯罪に巻き込まれて冤罪かけられてる。。

卓也がもっと珠の絶望に寄り添ってくれる存在なんだと思っていたら、尾行を打ち明けた途端に激しく引かれて、あれも悲しかった。まだ若いから、ささいな罪でも受け入れ難いということか。

「俺たち何のために一緒にいるんだ!?」

パソコン1人1台、スマホ持ちの時代。みんな秘密だらけ。
リアルな関係が欠落した世界に叫ぶ。

ソフィ・カルの「哲学的・文学的尾行」は今一つ理解できず、したがって珠の論文がどれほど素晴らしいのかも今一つ理解できない。

けれども、きっと誰もがみんな他人の秘密に興味がある。それを覗く事で満足したいのだ。あの大家もそうだし。そして、恐らくこの課題を出した教授も。

自殺したように見えたけれども、ラストシーンであの指輪の手が映っているということは、教授は生きていて今は珠を尾行しているということよね。

卓也も同じ駅のカットに映っていたということは、今も近くに居るのよね。

そう思いたいだけかも知れないけれども、妄想かも知れないけれども、そういうラストに少し救われる。

『二重生活』公式サイト

 

 

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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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