マネー・ショート 華麗なる大逆転
~ The Big Short ~
作品情報
監督・キャスト
監督: アダム・マッケイ
キャスト: クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット、メリッサ・レオ、ハミッシュ・リンクレイター、ジョン・マガロ、レイフ・スポール、ジェレミー・ストロング、フィン・ウィットロック、マリサ・トメイ
日本公開日
公開: 2016年3月4日 観賞: 2016年3月9日
第88回アカデミー賞・脚色賞受賞。
レビュー
☆☆☆☆
面白かったよ!面白かったけど思っていたのと全然違っていた。もっと、勝つぜ勝つぜヒャッホーーー!!という内容だと思い込んでいた。
邦題の「華麗なる大逆転」って何!?
◆あらすじ
2005年のアメリカ。金融トレーダーのマイケル(クリスチャン・ベイル)は、サブプライムローンの危機を指摘するもウォール街では一笑を買ってしまい、「クレジット・デフォルト・スワップ」という金融取引で出し抜いてやろうと考える。同じころ、銀行家ジャレド(ライアン・ゴズリング)がマイケルの戦略を知り、ヘッジファンドマネージャーのマーク(スティーヴ・カレル)、伝説の銀行家ベン(ブラッド・ピット)らを巻き込み……。(シネマトゥデイより引用)
なんでも…
2008年も遠くなりにけり…で、「リーマンショックってリーマン(サラリーマン)がショック受けることっすよね!?」という層もネタじゃなくて居る世の中らしいんで…ガチっすよ。
この映画を観るにあたって最低限知っておくといいかも~~という金融用語などを猫でも解る程度に簡単に解説付けときますよ。
ぃゃ…サラリーマンがショック受けたってのもあながち間違いじゃないっすけどね…。
猫でも解る簡単金融用語解説
リーマン・ショック
とはリーマン・ブラザーズというアメリカの投資銀行が破たんしたことによる世界的規模の金融危機のこと。であって、サラリーマンショックじゃないでよ…。
で、そもそもその事態を引き起こしたのがこの映画の題材であるサブプライムローンだったわけ。
サブプライムローン
とは、本来家なんか買えそうもないような低所得な人たちに貸し付けるローンのこと。最初は安いけれども段々金額が吊り上っていって返せないよ…となる計算。
そんなことしたら貸す方も損なんじゃね?という話だが、この時代は債務者がローンを返せなくなったら追い出して別の人に売れば、元々売った時の値段より吊り上っていたので損することもなかったのである。バブルバブル。
MBS(Mortgage Backed Securitites 不動産担保証券)
住宅ローンを証券化したもの。
CDO(Collateralized Debt Obligation 債務担保証券)
借金を返すよ…という約束を証券化したもの。
この担保の中に悪質なサブプライムローンが入っていて、他の優良なローンとまとめてAAA最高評価になっていたことが騒動の発端。
CDS(Credit Default Swap 債務不履行保険)
上のCDOが破綻した時に保険金を貰えるという保険制度。
つまりCDOという車がトラブル事故車だったら保険金が貰えるわけ。その保険金は高く、しかもCDOはチョー優良車だとみんな信じ込んでいるから、こんな保険は誰も掛けない。
このCDOが不良品だと気付き、この保険に掛けたれ…と思いついて実行した人たちの物語がこの映画。
もう一つ。
空売り
普通、何かを売ろうと思ったら物が無ければ売る事が出来ませんよね。
けれども、株や為替の世界ではとりあえず物が無くても借りて売る事が出来る。「空」でも売れるわけです。だから空売り。
あなたはリンゴを売りたいのですが持っていないのでBさんから200円のリンゴを1個借りて売ります。
借りたので当然返さなくてはならず、1か月後、あなたはリンゴを1個買ってBさんに返します。その時、リンゴは50円に値下がりしていました。
Bさんに返すのはリンゴであって代金ではないので、あなたは150円儲けた事になります。これが空売りで儲かる仕組み。
もちろん、反対に1ヶ月経ったら200円のリンゴが350円になっている事もあり、その場合、あなたは150円損をする。
そうならないように売ったり買ったりしているのがトレーダーという人たちである。
ま…頑張っても損する時は損するし……
リーマン・ショックの時は私はまだ何もやっていなかったけれども、財産溶かして廃人になった人たちが多数出たのはもう伝説。
一分足で直線に下がるチャートを見る恐ろしさは体験した者にしか解らないであろう…ああなったらもう頑張ろうが救われようがないもん。
ちなみに「マネー・ショート」の「ショート」とは「売る」ことである。ツイッターなどで「Sだ」とか「L(ロング・買い)だ」とか言っている人を見たら、その人は頑張っている所なので生温かく見守って下さい…。
ということで、映画の感想。
冒頭にも書いたけれども、もっと勝つぜ勝つぜ!!と、上げ上げしたストーリーだと思っていたので、想像よりも堅実な作りで驚いた。 もっとも、演出はぶっ飛んで面白い。先ほど説明した金融用語や状況は説明要員キャラの口から突然語られ出したりする。
小洒落た演出と懐かしいMetallicaやGuns N’の音楽にノリノリしながら、膨大な説明セリフの洪水と格闘する…。
劇中の人たちはよく薬を飲んだりしているが、そりゃあんな世界にいたら精神も不安定になるし胃も痛くなろうというもの。
この人たちの日常カオス生活が演出その物に現れている感覚。溺れる。
ストーリー的にはあの時勝ってたやつらがこんな聖人君主みたいな脳の持ち主ばかりだとは到底思えず、そこは違和感。
違和感というよりも、前述したように「みんなで金儲けてやろうぜ」的勝ち組ストーリーだと思い込んで観たのに主要キャラには何の繋がりもないし、各々がトラウマやコンプレックスを抱えて巨悪な現実と闘う的なストーリーに肩透かし食らったのだった。
だから、つまらなかった。という事では無くて、想像していたのとは全く違う面白いものを観た。
とは思っている。
勝ち組には勝ち組なりの虚しさがあるだろう。
けれどもさ、負けて地獄を見る人たちを踏み倒した上に勝ち組がいるというシーソーゲームがこの世界の仕組みなのである。説教されなくても、そんなことは解ってやっているよね、皆さん。
だから勝つ時は喜べばいいと思うよ。上げている時は有頂天になればいいと思う。
ジェイミーとチャーリーの2人組が私には大変好ましく見えた。
彼らにはまだ人生の憂いが少なく、勝てば素直に喜び勝ちが見えなければジクジクし、諭されれば素直にシュンとする。
常に新しい方向に儲けのアンテナを張り、未来を見ている。若者はこうでなくちゃ。
だから、私がこの作品の中で一番グッときたのは、終盤にベン・リカートが彼らに贈るあるひと言なの。
説教よりも、そっちに泣かされた。
この作品、当然のことながら映画ファンの方々だけではなく投資をしている方たちの注目度が高くて、ツイッターを見ていると皆さん「オレは面白かったけど株もFXもやっていない人と観に行っちゃって相手に申し訳なかった」と感想を呟かれているのが面白い。
私も見終った時はそう思ったのだ。
けれども、人間ドラマとして充分に魅力的だったことを考えると本当は知識など要らないのかもしれない。
何も知らないことが厄介なのではない。知らないことを知っていると思い込むのが厄介なのだ。 -マーク・トウェイン
以下ネタバレ感想
ベガスの投資家会合で、自分たちの読みが当たっていると確信してはしゃぐジェイミーとチャーリーをベン・リカートが「浮かれるな!これからどれだけの人が路頭に迷うと思っているんだ」と叱責する。
ベンは路頭に迷う人たちをたくさん見て来たんだ。だからこそのこの言葉。
マイケル・バーリは、自分の読みを信じない人々に対して自分の生立ちを重ねて孤独を噛みしめる。
マークは金のために兄弟を失い責任を感じて今を生きている。
みんな、儲けたいという純粋な(?)欲求よりも世を正すために動いている風…。
黒い欲望の塊りである私としましては、そこら辺が何だかキレイすぎて見えてしまった部分はある。
だからかしら。終盤のあのシーンで泣けたの。
「どうして僕らを助けてくれたの?」
と、たずねるジェイミーとチャーリーに、
「だって、金持ちになりたいんだろう?」
と答えるベン・リカート。
前の説教のシーンよりも、こっちの方は紛う事なき聖人に見えた。
若者たちが今後味わうだろう苦しみも、この勝利によって地獄を味わう世間も、全部解っていて、それでも願望を叶えるために手を差し伸べてくれた。
これこそが純粋で偽善のない優しさだと思った。
家を失った家族が、それでも笑って寄り添って暮らしている映像が入ったのにも救いを感じる。
失敗すれば失敗したようにみんな生きていく。
何とかなるもんだ。そう思えた。
comment
BROOKさん
>誰も“華麗なる大逆転”をしていませんでした。
みんな虚しさだけが残ったような感じに。
負ければ当然虚しい、買っても負けた人の事を思えばまた虚しい…そんな感じでしたね。
「ハゲタカ」ですね。
「金のない悲劇。金のある悲劇。」
どう考えても邦題がいただけませんよね…
誰も“華麗なる大逆転”をしていませんでした。
みんな虚しさだけが残ったような感じに。
ストーリーは解りやすくされているものの、それでも何となく理解出来た程度で…(苦笑)
後半の緊迫感はなかなか見応えがありました♪