許されざる者
監督: 李相日
出演: 渡辺謙、柄本明、佐藤浩市、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、國村隼、近藤芳正、小澤征悦、三浦貴大、滝藤賢一
公開: 2013年9月13日
2013年9月21日。劇場観賞。
原作…というか、オリジナルは1992年に公開されたクリント・イーストウッド監督の同名作品。(未レビュー)
オリジナルの方は1880年代のアメリカを舞台にしている西部劇だ。町を牛耳る保安官が「法律」であり、主人公は賞金稼ぎのために理不尽な相手に立ち向かう。
リメイクである今作は、面白いことに時代的に同じ所に立っている。
1880年。日本は明治13年。
1868年に幕末の内乱である戊辰戦争が起こり、新政府軍によって鎮圧される。3年後には廃藩置県により藩は無くなった。1876年には廃刀令により武士の魂である刀が取り上げられた。士族の不満は募り、翌年には西南戦争が勃発する。
武士である事を取り上げられ、戊辰戦争による傷跡も納まりきらず、それでも時代は目まぐるしく動く、まさに激動の時代。
主人公・釜田十兵衛は戊辰戦争に幕府軍として参加し、「人斬り十兵衛」と呼ばれるほどの剣の腕前の持ち主であった。しかし、敗北した幕府軍の残党を新政府軍は追い続け、生きるために斬る苦しい逃亡生活を強いられる。
何年か後に十兵衛は北海道で妻となる女と出会い、素朴な幸せを手に入れた。
刀を捨て、家族と極貧生活を送った末に妻を失くし、2人の子供と暮らす十兵衛の元へかつての仲間が現れる…。
今年、大河ドラマ「八重の桜」を見ている身にとっては色々と重なって見える部分が多かった。
「八重の桜」の場合は会津戦争後に会津藩士は斗南に移住させられる。
そこでは多くの者が食べることが出来ず、寒さの中で命を落とし…という部分がドラマ中であまり深く描かれなかったので、映像的に補填する事が出来た気分。
極寒の地、尽きる食料、横暴な新政府軍、殺さずの誓いを立てた人斬り十兵衛に剣心が重なったり、明治の開拓民にも他の作品で思い出す物があったり…。
自分的には、あっちで見た物こっちで見た物が脳内で補填され、幕末の武士のやるせなさを思い起こさせられる…そういう作品になった。
斬りたくなくても斬らねばならなかった激動の時代を生きた人が、許されざる者に堕ちていく。
ストーリー自体は元映画とほぼ同じ中、この激動の時代が舞台になった事で日本ならではの独自の物語になったと思う。
厳しくも美しい北海道の自然と、役者さん達の素晴らしい演技を堪能できる1本。
ただ、心を鷲づかみにされてどっと泣くような事は無かった。残虐シーンが目を覆うほどではないからかなぁ…と個人的には、そんな風に思っている。あまり「必死さ」を感じられなかったのである。
佐藤浩市さまなんて、充分ゲスいんだけどね…。
役者さんの演技が云々ではなく、作品自体が何となく「上品」なのだ。だから、ぐわっと来そうで押さえられてしまう…この辺はもう好みの問題なのだろう。
しかし、小池栄子さんは、何に出ていても素晴らしい。♥
あとは、行きずりで賞金稼ぎに加わったアイヌの青年・柳樂くんも良かった。ハイテンションだけれども、影にあるのは切ない身の上。
そして、やはり最終的には謙さんの迫力に持っていかれてしまうのだった。
ここから下ネタバレ↓観てない方は観てから読んでね
個人的に違和感感じたのは、なぜ賞金を出すなどという話を持ち出した女郎たちを取り締まらないのだろう、という事…。
金吾の拷問に立ち会わせてまで口を割らせようとするなら、初めから賞金を出して復讐すること自体を取り締まれば良かったのに。
オリジナルの方は西部劇なので「賞金稼ぎ」はハマる気がするけれども、日本でこの状況では「賞金稼ぎ」という設定は無理がある気がするんだな…。
(一緒に見たダンナにそう言ったら「賞金を出さなきゃ話が始まらないだろ」と言われた。そ…そうだけど~ )
金吾は弟の方を殺した段階で、自分から誘ったのにこの話を下りてしまう。
つまり、戊辰戦争の時にはそれなりに活躍したのであろうこの老人は、もう自分には「本当に許されざる者なのかどうかよく解らない人間」を殺す気力がない事に気づいてしまったのだろう。
それは、もう自分は武士には戻れないというあきらめの気持ちでもある。だから途中で抜ける。
今わの際に言ったという「お前たちは十兵衛の本当の恐ろしさを知らない」という言葉は、十兵衛にはまだその気力が残っていることを表している。
五郎もしかり。
本当は一度も人を殺した事が無かったというこの青年も、自分はどんなに恨みがあっても無感情に人を殺すことなどできないと悟った。
十兵衛だけが今でも人を殺せる者なのだ。
それに気づいたから、子どもたちの前から去った十兵衛。
この賞金稼ぎは、各々に自分の本質を気づかせた。
「地獄で待ってろ」
は、そういう彼らに、それでもお前らも人を殺した。という十兵衛の叫び。
誰もがみんな許されざる者である事を示し、それでも、子どもたちを育てるために その地に住んで十兵衛の帰りを待つ事にしたなつめ。
そのラストは贖罪を求める救いでもある。
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