孤島の王
原題 : ~ KONGEN AV BASTOY ~
作品情報
監督・キャスト
監督: マリウス・ホルスト
出演: ステラン・スカルスガルド、ベンヤミン・ヘールスター、クリストッフェル・ヨーネル、トロン・ニルセン、モーテン・ローブスター、ダニエル・ベルグ、オーディン・ギーネソン・ブローデルー、マグナル・ボッテン、マグヌス・ラングレーテ
日本公開日
公開: 2012年4月28日
レビュー
☆☆☆☆
2013年2月7日。DVD観賞。
バストイ島は、ノルウェーオスロ南方75kmにあるノルウェー国の島。
政府は1898年に非行少年の矯正施設としてこの島を購入し、1970年に閉鎖された。
現在は「バストイ刑務所」として運営されている。
あらすじ
1915年、外界と隔絶されたバストイ島にエーリングという非行少年が送り込まれてくる。島の矯正院では過酷な重労働や教育者たちによる性的虐待が行われており、反発するエーリングの態度が抑圧された少年たちの心を突き動かし、反乱の引き金となる(映画.comより引用)
バストイ島をモデルにした実話ベースの物語
この作品は、1915年に実際に起きた収容少年たちによる反乱事件を元に描かれた史実ベースの映画である。
エーリングは1915年に非行矯正のためにバストイ島に送られてくる。
本来ならば刑務所行きだった。
と、寮長に言われているから犯罪を犯したのだろうけれども、過去に何をしたのかは言わないのがここのルールらしい。
150人の少年が収容されていたらしい島。
幼い顔付の少年から、いかにも何かやらかしそうな顔をした少年まで、それぞれ。
寮は5つに分かれているらしいが、舞台となるのはエーリングが入所したC棟だ。
収容されたら名前はもう無い。「C1」「C2」と、番号で呼ばれる。
エーリングに与えられた名前は「C19」。
教育という名の虐待
「意欲と従順さ」を「神の言葉とご意志」によって育むのが目的らしいこの施設で行われる数々の「教育」に目を覆いたくなる。
非行少年を更生させるのに圧力が必要なのは解る。
しかし、圧力以上の卑劣な手段で行われる虐待には耐えがたい。
エーリングを指導することになったC棟リーダーのオーラヴは、この新入りを監視しつつも奔放で反抗心を失わない態度に共感はあったのだろう。
下を向いて従い、ただ卒業の日を待ち続けるだけだった少年たちの暮らしに変化が起こりはじめる。
それは良い方向だったのか悪い方向だったのか…。
「銛を3本打っても死なないクジラ」の強さ
青みがかって見える雪景色の映像。凍った海。日が当たらない島の施設の中で鬱々と暮らす人々の気持ちが伝わる。
閉塞感を持っているのは収容されて極寒の地で労働させられている少年たちだけではない。
閉じこめられた世界では、みんながおかしくなってくる。大人も…教師も。
こうなるべくしてなった結末だとは思いながらも、つらい。
銛を3本打っても死なないクジラ。
その精神は、今も生きている。
そう語られるかのようなラストにだけ救いがある。
以下ネタバレ感想
決して脱走できないと言われる島で、それを試みるエーリング。
オーラヴは知ってはいるが協力はしない。
あと少しで卒業を控えているオーラヴにとっては、少し耐えていれば出られる島なのだから。
銛を3本打っても死なないクジラがいた。丸1日生き延びた。
そのクジラは衰弱していた。
身体は過去の戦いの傷で覆われていた。
降船間近の甲板員がいた。
エーリングが語る物語。
何も騒ぎを起こさず反抗心を持たず、優等生のまま卒業するはずだったオーラヴは、卒業間近になって寮長による性的虐待の事実を院長に訴える。
彼にとって精一杯の正義であり、精一杯の信心だった。
しかし、院長は自分の身を守るために事を隠蔽し、虐待を受けていた少年の自殺をエーリングやオーラヴのせいにし、問題の寮長はクビにしたように見せかけて外出させていただけだった。
ここに来て、初めて少年たちの心は爆発する。
暴力と脅しに屈していた心が、立ち上がるのだ。
そして、エーリングは「バストイの王」になる。
銛を打ちこまれて傷だらけでも、屈せず立ち上がる心。
犯罪者でも矯正要因でも人間には心があり、それを閉じ込めれば必ず反発が起こる。
それが、成功しないと解っていても…彼らは希望を失わずに立ち上がる。
この暴動を鎮圧するため、実際にこの時150人の兵士が島に送られたのだという。
鍬や鎌で鉄砲に勝てるはずはなく、彼らは次々に捉えられた。
エーリング以外はその後どうなったかは描かれず、時は何年も経過してラストに至る…。
少年たちになされる暴力や暴言に眉をひそめ、大人のズルさ、汚さに怒りを覚えつつも、ちょっと複雑な気持ちで見てしまった。
島に入ったばかりの頃、オーラヴはエーリングに「人を殺したのか」と尋ねている。
それほどの犯罪を起こした少年もいるってことなの…?
この少年たちに大人がしている事は「教育」ではなく「罰」であり、全く矯正に相応しいとは言えない。しかし、もしそれほどの犯罪を犯しているなら、「罰」も当たり前…という風に見えてしまったから。
昨今の少年事件の内容の酷さを考えると、みんなこの島に送られてしまえと思えなくもない。
…もちろん、そんな事を語る作品ではないのだけど、ふとそういう考えがよぎってしまったのは確か。
「銛を3本打っても死なないクジラがいた。丸1日生き延びた。
そのクジラは衰弱していた。
身体は過去の戦いの傷で覆われていた。
降船間近の甲板員がいた。
彼は6年間真面目に働き、明日上陸する。」
上陸した甲板員が、強い独立心と正義の心を持ち合わせ、立派に更生しただろうことを思わせてくれるラストが心に残る。
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★前田有一の超映画批評★
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